第21章 Prayer
栞を挟んだページを捲り、ぎっしり詰まった活字に視線を落とした。
最近になってハマり出した、忍者を主役にした小説だ。
ここ数日でもう何冊読んだか分からない小説。
でもこれだってずっと前から変わらない、君との時間の過ごし方。
俺が小説を読み耽っている間、君はいつも俺の肩に頭を預けて眠っていた。
そう、何も変わっちゃいない…
小説に没頭してしまうと、君の存在を忘れたことなんて、しょっちゅうだったよね?
そんな時、君は決まって、
「…しょ…」
って…、掠れた声で俺の名前を呼ぶんだ。
そして、俺が漸く顔を上げると、君は俺を見て笑うんだ。
寝起きのボーッとした顔に、俺が一番好きな笑顔を浮かべてさ…
俺は黙ってその赤い唇にキスをするんだ…
「おかえり、智君…?」
愛しい人の名前を呼びながら…
色を取り戻した頬を撫でながら…
そしたらさ、君は言ったんだ…
「ただ…ま、しょ…」
ってね…
綺麗な涙を流しながら…
『Prayer』 完