第1章 Falldown
「判決を言い渡す。
主文、被告人を懲役15年の刑に処す。
判決理由は…………」
瞬間、目の前が真っ暗になった。
視界がぐらつき、立っていることもままならない身体は、足元から崩れていく。
嘘…だろ?
すっかり麻痺した脳を何とか奮い立て、霞がかった視界の中、翔に視線を向けた。
なぁ、翔?
嘘だよな?
嘘だって言ってくれよ、翔…
項垂れる俺の両脇を、二人の刑務官の腕が支えた。
「手を前に…」
俺は言われるまま両手を前に差し出した。
俺の両手に金属製のリングがかけられる。
二つの輪を繋ぐ鎖が、俺の動きを拘束した。
再び両脇を抱えられた俺は、鉛のように重たくなった足を引き摺るように、一歩、また一歩と足を踏み出す。
その時、ボスンと音がして、俺は音のした方に視線を向けた。
弁護側の席にいた翔の身体が、椅子に深く沈み込んだ。
天を仰いだ目を手で覆う。
指の隙間からキラリと光る水滴が見えた。
泣くなよ…
泣かないでくれよ、翔…
俺は大丈夫。
お前を守る為なら、何だって出来る。
だから…
俺の顔に自然と笑が浮かぶ。
大丈夫。
俺は大丈夫。
だから…
俺はこの日、“容疑者”から“被告人”になった。
そして俺に刑が課せられれば今度は“受刑者”になる。
俺はこの日、“大野智”の名を捨てた。
いずれ俺に付けられる“番号”。
それが新しい俺の“名”になる。