第14章 Dilemma
松本とは一度ゆっくりと話をしたいと思っていた。
いや違うな…
話さなきゃいけないと思っていた。
松本の行動には分からないことが多すぎる。
それに長瀬さんとの関係も…
だからこの邪魔が入ることのないこの空間が、決して嬉しくはないが、松本から話を聞き出すチャンスだと思った。
でも、どうやって切り出そうか…
「おい大野…」
思いあぐねていると、不意に声をかけられ、俺は我に帰る。
「な、なんだよ…?」
咄嗟のことに、声が裏返ってしまう。
そんな俺に、松本が珍しく声を上げて笑たった。
「お前さあ、んなビクビクしてんじゃねーよ。俺は化けモンかよ…。大体コイツがある限り、殴り掛かろうと思ったって出来ねーしな?」
松本が錆びた鉄格子を親指で指す。
「…確かにな…コイツがある限り、俺は安全、ってことだ…」
「そうかもしんねーな…。でもな、大野…」
言いかけた松本が突然口篭る。
「でも、なんだよ?」
「…何でもねーよ…それより、さっきの話だが…」
「さっきの…って?」
松本が鉄格子の向こうで、呆れたと言わんばかりにため息を零した。
「お前が言い出したんだろうが、ドライバーくすねた奴は誰か、って…」
「ああ、そうだった…」
言われて漸く思い出した俺は、自分の間抜けさに、自嘲気味に笑って見せた。