第13章 Invariable
岡田に抱かれたのは、何も岡田の気持ちに応えたからでも、ましてや情に絆されたとか…そんなんじゃない。
俺自身が空っぽだったから…
ぽっかり空いてしまった穴を、埋めたかったから…
でないと立っていられそうになったから…
ラーメン屋を出る直前に震えたスマホ。
電話の相手は侑李だった。
収監されている智君に面会をしてきたことへの報告だった。
俺は智君の様子を窺い知ることが出来たことに、少なからず嬉しさを感じていた。
でも侑李が電話の切り際に言った一言に、俺の頭の中はまるで霞がかかったように真っ白になった。
『もう俺に関わるな…』
ガタガタと音を立てて崩れそうになる気持ちを、酒の力を借りて繋ぎ止めようとした。
でも出来なかった。
俺は岡田の俺への気持ちを利用した。
幸いにも岡田自身も空っぽだった。
空っぽになった者同士が、お互いに空いてしまった穴を埋めようとしただけ…
そこには何の感情もなかった。
少なくとも俺には…
だって君への思いは、まだ俺の中に変わらずにあるから…
休み明け、事務所に行くと、いつもと変わらない岡田の姿がそこにあった。
俺は岡田に侑李からの言葉を話して聞かせた。
岡田は俺を真っすぐに見つめ、
「諦めるつもりはないよな?」
と言った。
俺はそれに無言で頷いて見せた。
岡田の涙の理由を知ったはその後のことだった。
岡田が請け負た裁判の被害者家族が、下された判決に納得出来ず、自らの命をもって抗議をした、と…
『Invariable』完