第13章 Invariable
終業時刻も過ぎ、デスクの上に積み上げられた膨大な公判資料を鞄に詰め込んでいる時だった。
胸ポケットに入れたスマホが震えた。
…が、先に帰り支度を済ませ、駐車場で俺を待つ岡田の手前、俺はその着信を無視した。
急を要する内容の電話ならば、またかかって来るだろう。
それに、相手さえ分かればこちらからかけ直したっていい。
俺は手を休めることなく、帰り支度に専念した。
手が千切れそうに重い鞄を抱え、駐車場へと速足で向かうと、岡田が待ち兼ねたかのように助手席のドアを開けた。
「おせーよ…」
苦情を言いながらも、その顔は怒るどころか、笑みさえ浮かべている。
「悪ぃ…、何せ別件の資料と格闘してたもんでね」
そう俺達の仕事は、何も智君の弁護だけに限ったことではない。
他にも幾つかの国選弁護を抱えている。
本音を言えば、智君のことだけに専念したいけど、そうも言ってられないのが現状だ。
「飯、どうする?」
一人だと食事もろくに摂らない俺を気遣ってか、岡田は仕事終わりにいつも俺を食事に誘う。
「何でもいいよ、岡田の食いたいもんで」
別に迷惑なわけじゃない。
寧ろ岡田の気持ちはありがたいと思っている。
でも、事件の真相が明らかにならない今、優雅に食事を楽しむ気分には、到底なれなかった。