第10章 Testimony Ⅱ
身体を揺さぶられ、重い瞼をゆっくりと開くと、そこには見慣れた光景が広がっていた。
「着いたぞ?」
助手席のドアが開かれ、少しだけ疲労の色を纏った岡田の顔が覗き込む。
「ん? あぁ…マンション…」
「思ったより時間かかっちまったがな…」
岡田が苦笑いを浮かべる。
さっきまで間が眩むほど青い空は、すっかり夕焼け色に染まっていた。
「悪かったな、運転任せてしまって。疲れただろ?」
俺が聞くと、
「少しだけな?」
と、岡田はおどけて見せた。
シートベルトを外し車を降りた俺は、ふと後部座席に視線を向けた。
深山さんの姿は、もうそこにはなかった。
「アイツならもう事務所に帰ったよ」
「そうか…」
礼を言いそびれたな…。
「アイツには俺から伝えておくから、今日はもうゆっくり休め」
岡田が俺の肩を叩き、再び車に乗り込んだ。
「岡田もな? 岡田もゆっくり休んで?」
「あぁ、じゃあな」
そう言うと、片手をヒョイと上げてアクセルを吹かした。
岡田の車が角を曲がるのを見届けて、俺は漸くマンションのエントランスを潜った。
今日はもう休もう…
何も考えずに、ゆっくり…
ねぇ、智君?
俺達の闘いはまだ始まったばかりなんだよね?
『Testimony Ⅱ』完