第10章 Testimony Ⅱ
ポツリポツリと語られる侑李の言葉に、その場にいる誰もがただじっと耳を傾けた。
侑李が語った二人の”過去”は、余りにも残酷で、悲しい”過去”だった。
身寄りのないことをいいことに、自身の私腹を肥やすために幼い子供たちを利用した施設長の事件は、施設の名前こそ公にはなっていないが、当時学生だった俺の耳にも届いていた。
でもまさか…
事件が起きた施設が智君がいた施設だったなんて…
しかも事件の関係者…加害者と智君が関わっていたなんて…
俺の知らない智君の過去と、想像もしていなかった事実に、俺の思考が追いつかない。
目の前が真っ暗になる。
「あの~、ちょっといいですか?」
沈黙を破ったのは、深山さんだった。
「長瀬さん、でしたっけ? 長瀬さんは大野さんと面識は?」
彼の癖なのだろうか、耳朶を頻りに弄る深山さんが、身を乗り出す。
「そりゃあ、ありますよ。なんたってね、俺に侑李の身元引受人になってくれって、頼み込んできたのは大野さんなんですから」
そのために、長瀬さんは保護司の認定を受けたんだ、と…。
「長瀬さんはどこで大野さんと?」
深山さんが次々と質問するのを、俺と岡田はただ黙って聞いていた。