第9章 Deja vu
「おい、寝てんじゃねぇよ、起きろ」
途切れそうになる意識を、松本の平手が引き戻す。
「切れちまったか…。これじゃあ暫く使いモンにならねぇな…」
忌々し気な口調で言うと、スッと立ち上がり、身なりを整える。
そして辺りをぐるりと見回すと、唇の端を引き上げて笑った。
「おい、マサキ! そこにいんだろ? コソコソ隠れてねぇで出て来いよ?」
マサキが…?
どうしてここに…?
カサッとコンクリートを蹴る音が倉庫に響く。
「コイツ、井ノ原んとこ連れてけ」
そう言って松本はマサキの肩をポンと叩いて、倉庫の重い扉を開けた。
「…マサキ、どうして…?」
ゆっくりと近付いて来る影が、俺の目の前で立ち止まる。
淡い光に照らされたその顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていて…
俺はその頬を拭ってやりたくて、痛む身体を起こそうとするのを、マサキの細い腕に抱き竦められる。
「ごめんね、サトシ…。オレ…、何もしてやれなくて…」
肩を震わせ、むせび泣くマサキの姿に、不意にいつかの自分自身の姿が重なる。
あの時…
侑李の告白を聞いた時、俺も今のマサキのように、何も出来なかった自分を悔いたことか…
侑李、
今ならお前の気持ち、少しは解ってやれるのかもな…
「マサキ…ゴメン…」
『Déjà Vu』完