第9章 Deja vu
「ねぇ、サトシも野球やろ?」
刑務作業の合間に与えられる30分間の運動時間。
木陰のベンチに座り、砂地に木の枝で落書きをする俺に、額から汗を流すマサキが声をかける。
「俺はやんねぇよ…」
元々身体を動かすのはあまり好きじゃない。
「たまにはいいだろ? な?」
マサキが俺の腕を引く。
コイツのことは嫌いじゃない…寧ろ惚れてる、と思う。
でもこういう強引なところは苦手だ。
「やらねぇって…」
マサキの手を振り解き、また足元に視線を落とす。
書きかけの絵は…跡形もなく消えていた。
「俺のことはいいから、お前行って来いよ」
グラウンドからはマサキを呼ぶ声が響く。
スポーツ万能で、性格も明るいマサキは工場内でも人気者だ。
「ほら、行けよ…」
首だけでグラウンドを振り返るマサキの背中を、俺はポンと押してやる。
なのにコイツは…
「サトシがやんないならオレもや~めた」
グラウンドに向かって両手を合わせて小さく頭を下げると、俺の隣にドカッと腰を降ろした。
「行けよ?」
「行かないよ? サトシの傍にいたいから」
マサキの口から、恥ずかしげもなく吐き出される台詞に、地面に向けたままの顔が熱くなる。
「…ばか…」
「何それ、褒めてんの?」
「別に褒めてねぇし…」
俺の隣で、マサキが声を立てて笑う。
アイツと同じ、
屈託のない笑顔で…