第8章 Testimony
焦れったい時間だけが過ぎて行く。
次第に俺の中に焦りが苛立ちとなって湧き上がって来る。
「あのっ…!」
ソファーから身を乗り出し言いかけた俺を、岡田の手が制した。
そして俺に、落ち着けと言わんばかりに首を振って見せた。
「じゃあ、質問を変えようか?」
岡田はメモを閉じ、ペンと一緒に鞄の中に仕舞った。
侑李の緊張を少しでも解そうと、岡田なりの気遣いなのだろうか。
「君と大野君は同じ児童養護施設で育ったんだよね? どんな関係だったのか、教えてくれる?」
ゆっくりと、穏やかな口調で岡田が侑李に問いかける。
すると俯いたままだった侑李が、漸くその顔を上げた。
「…大野君は…智兄ちゃんは、身寄りのない僕に、本当の兄弟のように接してくれました」
侑李は智君を“兄ちゃん”と呼んだ。
また俺の知らない智君の過去が、そこにはあった。
「そっか…。で、どんな兄ちゃんだった? 優しかった? それとも…」
あくまでも侑李が自分の言葉で語るのを促すように、岡田が質問を重ねる。
「君の知ってる“大野智”を、俺達に教えてくれないか?」
その言葉に、侑李の瞳から涙が一筋頬を伝った。
そして涙に震える声で、
「兄ちゃんじゃない…。兄ちゃんがそんなこと出来る筈がない!」
手にした帽子で顔を覆う侑李。
侑李は知ってる…
事件に繋がる“何か”を、侑李は知っている。
俺はそう確信した。
「Testimony」完