第31章 灰羽リエーフの数日 2023
今年は月曜が誕生日。
いつもなら当日に有給を取っていたが、今年は忙しくなる前にと誕生日の前の週、お互いの休みの水曜日がいいと美優さんが譲らなかった。
前日の夕飯時にどこに行くか問いかけた俺。
8時に玄関集合、歩きやすく寒さ対策のできる服装で。
美優さんに言われたのはそれだけ。
遠出をするのだろうと思いながらもそれ以上は問いかけられず、そのまま就寝した。
当日、玄関で渡されたのは美優さんが作ったらしい旅のしおり。
「今日の移動は電車。とりあえず駅に向かうよ?」
中身を見ぬまま鞄にしまった薄く小さな冊子。
未だに目的地はわからないけれど、美優さんが楽しそうだからいいや。
それに今日の美優さんも可愛い。
アイボリーのぴったりめの薄手のニットにグレンチェックのウエストマークのボリュームスカート。
羽織りものは今流行りのアイボリーで縁が黒のラインが入ったニットジャケット。
黒の透け感のあるストッキングに最近よく履いている爪先の丸いローファー。
鎖骨の見える首元はパールとゴールドのネックレス。鞄は小さめレザーのショルダーバッグだ。
俺はというと、流行りのスエードのジャケットに白のノーカラーシャツ。グレンチェックのスキニーパンツにローファー。
示し合わせたわけではないお揃いに、玄関で二人で笑った。
鞄は動きやすいように黒のボディーバッグ。
中には必要最低限の荷物と美優さんが作ってくれたしおりが入っている。
本当にそれだけ。
手を繋いで駅に向かえば、ICカードをピッと通して駅の中へ。
池袋に向かう電車の中でしおりを開こうとすると、美優さんがその手を制した。
「電車、乗り換えてからね?」
ふふ、と可愛らしく笑む美優さんにこくこくと頷く。
なんだその顔、反則。
正直に美優さんに抱きしめたくなったと伝えれば頬を染め勢いよく横に首を振ったのだった。