第31章 灰羽リエーフの数日 2023
「…って言われたんすよね……」
はあ…と紫煙を吐き出しながら話しかけるのは職場の先輩。よく仕事の手際を見てもらったり飯食いに連れて行ってもらったりするうちの職場の数少ない男性スタッフの一人。
「まあ、その彼女チャンの言うことも一理あると思うぜ。」
カチリ。
100円ライターが火を灯す音、燻る煙に、俺は灰を灰皿に落としながら雅(みやび)さんに顔を向けた。
「タイミングが合うならいいけど、正社員になれたなら仕事やれって言うのは正論。まあリエちゃんは1番の有望株だから、一日有給で休んでも何も言わねえけど。」
「雅さん…毎回言ってますがその呼び方やめてくれません?リエちゃんって…」
雅さんは深く息を吐き出すと二マリと笑い俺の頭をわしゃりと撫でた。
「8歳も歳違えば"リエちゃん"で十分だろ。」
けらけらと笑う雅さんにため息をつきながら短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
そして立ち上がるとタバコを入れたポーチに忍ばせたフレグランスのミニボトルを振った。
「お、ちゃんと身嗜み気遣えるリエちゃんは偉いな。」
「雅さんが教えてくれたんでしょう。」
カシャリ、フリスクをケースから出し口に放り奥歯で噛み砕くと時計を見る。
休憩終了5分前。
同じく準備を終えた雅さんの後を追い店の中に入れば、俺はフロアに戻った。