第30章 夏、避暑にて。
部屋の鍵を開く音が響く。
リエーフが開いてくれたドアから4歩、5歩、中に入れば後ろでドアが閉まる。
『あの、りえ…』
振り返れば抱き止められる体。
痛いほどの力はない。でも抜け出すことはできない、私の好きなハグ。
少し前に聞いた衣擦れの音。柔らかな布を解く音に思わず喉が鳴れば目ざとく見つけられ、そのまま唇が触れる。
「…期待、してます?」
『ん。』
宝石のようなキラキラと輝く瞳をこちらから覗き込みながら小さく返事をすれば、リエーフも柔らかく笑いかける。
『久しぶり、だから。』
最近は夏バテと生理でそういうことができていない。お互いお盆前後は繁盛期なのと暑すぎて体力がもたないのもあって同じベッドでくっついて眠るだけだった。
でも今日は違う。
それを自覚すれば上がる体温。
鼻先に唇が当たれば、柔らかな布が床に落ちた。
帯が外れれば後は腰紐を解けば終わり。しかしその紐が解ける前に私の体は宙に浮いた。抱き上げられた体は柔らかな掛け布団の上に落とされる。
リエーフはいちど部屋から抜けると、クローゼットの自分の鞄の中を漁る。と、何かを持って再び戻ってきた。
枕元に放られた箱は2つ。白地にゴールドの0.01。
これをリエーフが使う時は、朝を気にしなくていい時。
……私を、抱き潰すとき。
「これの意味、わかりますよね?」
放った箱を一つ手に取るリエーフ。小さく頷けば、使いやすいように外側のパッケージを開いていく。その作業をするリエーフの指先を凝視していれば、作業を終えたその指は次に背中に周り、ぷち、とホックを外す。
「美優、抱くね?」
耳に吹き込まれるのは了承じゃなく決定事項。
その言葉に小さく頷けば、私はそっと目を閉じた。