第30章 夏、避暑にて。
『ただいま。』
部屋に戻れば部屋の奥から声がする。クローゼットに荷物を置きお部屋に繋がる扉を開けると、リエーフはビールを持ちソファに座っていた。
『リエーフ、先に飲んでたの?ずるい。』
「美優さんおかえり。だって冷蔵庫にあったから。」
ことん、ビールの缶を置いたリエーフが私に手招きをする。入り口から素直に近づき隣に座れば手を掬われる。
「ん、美優さん可愛い。その浴衣似合ってる。」
生成りに青の牡丹で帯は濃紺。誰でも結びやすいように兵児帯を貸し出しているみたいで、それがさらに可愛らしい。
ゆるく結えた髪の毛を解く男らしく長い指。その指が顎を捉えれば、ふわりと唇が触れた。
『リエーフはやっぱり館内着は無理だった?』
「ん……着れないことはないけど、丈がちょっと厳しいっすね。」
シンプルな白のTシャツと黒のカーゴパンツに身を包むリエーフのセットしていた髪の毛がサラサラと降りている。こちらからも唇を重ねれば、ちょっとだけ苦い舌が触れた。
『ん……苦い。旅行だからって飲みすぎないでね。』
「このくらいなら酔ったうちに入らないです。」
くすくすと笑みを溢すリエーフはちゅ、ちゅ、と顔中に唇を落とす。瞼を閉じて受け入れていれば、しゅるり、と衣擦れの音。
『ん…待って、ご飯5時半…』
「少しだけ…美優さん可愛過ぎるから…」
いつの間にかソファに押し倒される体。顔に落とされていた唇はそのまま首筋に触れ、軽く吸い付く。浴衣の裾を割るように足を開かされその間にリエーフの膝が割り込むと、襟元に指が伸びていく。
『っ、ご飯!食べたらっ!』
必死の形相で襟元の手を掴み脚を割る膝を腿でぎゅうと締めると、ぱちくりと目を開くリエーフと目が合う。噴き出すように私の上で笑うリエーフの下から這い出ると、解かれた兵児帯をリボンに結び直した。
『ご飯食べた後なら、ゆっくりできるでしょ…そのために夜ご飯早めにしたんだし。』
「ふふ、ですね。…負けました。でももう少し時間あるから髪の毛アレンジしますね?」
笑いを堪えながら、リエーフはクローゼットから小さなポーチを持ってくる。ここ数年出かけるときにリエーフが持ち歩くようになったこの小さなポーチには、ヘアアレンジの道具が入っている。そこから必要なものを取り出すと、解きやすいけれど可愛いアレンジを手早く行い満足そうに微笑んだ。