第28章 いつまでも輝く君でいて〜if〜
side 灰羽
ぴろん、とスマホが鳴る。
通知には連絡用のアプリのアイコンと、ついたよの文字。
口の端が上がると、急にうなじを掴まれ鏡を見るように促される。
「忠犬、鏡真っ直ぐ見る。時間ないんだから。」
「美優さん来てくれて嬉しいんだから少しくらいいいじゃん。千景サン。」
今日の俺のスタイリストは美優さんの友達の千景サン。打ち合わせで会った時には驚いたけれど、何の気兼ねもなく仕事ができるからありがたい。
「お、美優来たんだ。じゃあいつも以上に気合い入れなきゃね。」
「美優ちゃん来たの?そういえばあの話はした?」
隣でメイク中のアリサまで話に入ってくる。ヘアセットを終えた千景サンがメイクの確認をするために正面に回ったのを見ると目を瞑った。
「関係者パスは渡してる。あと、あれはサプライズだからまだ話してない。アリサ、あとでよろしくね。」
「ふふ、わかった。あとでね?」
「リエーフ、もしかして…今回無茶な企画入れたモデルってアンタか。」
「へへ、いいじゃないっすか。このステージはなんでもありなんだから。」
呆れ顔の千景さんに緩む頬を指摘されると顔を引き締め直し鏡を見る。千景サンがよし、と息を吐くのを聞くと俺は瞼を開いた。
「はい完成。出番まで30分くらいだから顔と頭崩さないようにね。着替えも慎重に。」
了解と返事をし、最初に出るための服を取った。
ファッションショーの裏側は殺伐としている。場所によっては男女問わずに下着一枚になっての着替えも当たり前。今回は軽い仕切りが置いてあるようだけど。その場で服を脱ぎ衣装を身につけ始めると千景サンの視線が刺さる。
「なんすか。」
「いや、前会ったメンズモデルは、洋服にラインが出ないようにビキニパンツ履いてたから…リエーフは普通のボクサーか。」
「最近はボクサー履いてるやつばっかりですよ。ビキニパンツ履くのなんて、洋服のデザインでかなり際どいところまで見えそうな時くらいですかね。」
そりゃあ仕事のために数枚は買った。念のために現場に持っていくこともある。でも、そこまで奇抜なデザインに当たらないから履く機会もない。
そんな話をしていれば、ステージの方から爆音の音楽と女の子の黄色い声援が上がる。ショーが始まったようだ。
千景サンもアリサも顔が一気に引き締まる。
急いで靴を履くと千景サンにメイクの最終チェックを頼んだ。