第27章 灰羽リエーフの1日 2019
06:03
物音がして目を覚ます。
隣に温もりはないが、ただ部屋が暖かいことにほっと胸をなでおろす。
ふわりと漂って来る朝食の良い香りに誘われて布団から出てキッチンへ向かえば、着替えをしお鍋に向かっている美優さんの姿があった。
「美優さん、おはよう。」
声をかければふわりと笑い挨拶をする美優さん。
火を弱火にして俺に近寄れば、眉を下げ笑う。
未だに腫れる美優さんの下の瞼。
そっと指で触れれば美優さんの体がびくりと跳ねる。
「腫れちゃいましたね。」
そう独り言のようにぽそりと呟けば、美優さんの口から小さなごめんねの声。
このごめんねは、何だろう。
目を腫らしてのごめん。
昨日泣いてのごめん。
それとも…
目線を下げれば美優さんの指に輝く約束の指輪。
そっと美優さんの左手を取るとそれを指から引き抜いた。
「リエーフ……?」
不安そうな表情に優しく微笑めば、美優さんの足元にひざまづいた。
「え、と。病める時も健やかな時も…」
うろ覚えの言葉を紡ぎながら先程外した指輪を元の位置に嵌めれば再び呼ばれる名前。
顔を上げれば、ぽたりぽたりと溢れ出す雫に俺は美優さんを抱きしめた。
「ごめん美優さん、嫌だった…「違う!」
いつもより苦しそうな声。
回す腕にこもる力。
「うれし…くて。」
「嫌われたかと思ってたから。」
美優さんの表情が見たくて美優さんの足元に膝立ちをすれば、俺はほろほろと流れる涙を舌で舐めとる。
「嫌いません。」
「ずっと側にいます。」
ありきたりなことしか言えない自分がもどかしい。
それでもなんども言葉にして伝えなければ何も変わらないんだ。
「美優さん、好きです」
何百回、何千回と送った言葉。
不安にならないよう、これからもたくさん伝えよう。
誕生日が来てひとつだけ貴女に近づいた俺が貴女にできる一番簡単で一番短い愛の言葉。
たくさん囁けば。
ほら、笑顔の花が咲く。
ふにゃりと笑う美優さんを抱きしめ軽く触れれば美優さんもそれに返してくれる。
大好きです。
貴女が大好きなのは変わらない。
23歳になって
2人で過ごした初めての朝。
俺はやっぱり美優さんが好きだと
改めて再確認した。
美優さん、大好きです。
end