第10章 デート編 一松くんのドキドキデート日和
「ねぇ、手繋いでもいーい?」
「あ?ヤるのに比べたら、別に手ぐらいどーってことないんだけど」
「やるって何を?」
「……」
ナニを言ってるんだおれは。
新品の中の新品。
新品未開封、状態○な童貞様だぞ?
調子に乗るんじゃねーー!!
「いよいよだ…いよいよ本物のゴミになる日が近づいてきた」
「手を繋ごうって聞いただけなのに、話の流れおかしくない!?」
自分をゴミに出す前に、主に侮蔑を込めた瞳で睨まれそして踏んづけられたいとか考えていたら、
—ポツッ…ポツッ…—
「雨…」
主が天を仰ぎながらつぶやいた。
雨の雫は、数秒後には滝のような雨になっておれたちを襲う。
「主、急ごう」
「うんっ」
ザアザアと激しい雨音の中、気がつくとおれは主の手を握りしめ走っていた。
主が風邪引いたら大変だ。
そう思ったら、恥ずかしいとか、嫌がられたらどうしようとか、そんな気持ちは吹き飛んでいた。
忘れ去っていた。
・・・
「はぁっ…はぁっ…」
「はぁっ…一松くん…ありがとう…っ!」
「…べっ…べつに……」
全速力で走り、主のアパートに着いた。
雨は止むどころかより一層強まっている。
「じゃあ…また」
近所の公園にトンネルの遊具があるから、そこで雨宿りしよう。
そう決めて背中を向けると、腕をぐいと引かれた。
「な…なんだよ?」
「こんな土砂降りの中帰るの?」
「そうだけど」
手を振りほどこうとするも、細い指はおれの手首をガシっと握りしめている。
「…うちで」
「…?」
「うちで雨宿り…して?」
そう言って、主はドアに鍵をかけた。
「お願い」
「お、お前、なんで…そんな…」
初めてみる主の色っぽい瞳、泣きそうで切なげな表情に捕らわれて、胸の奥に強い感情が湧き起こる。
強い強い思い。
ずっと渇望していた主との夜。
「……止んだら、帰るから」
——長い夜が、始まった。
ニート達の裏模様 第5章、四男と雨だれにつづく