第6章 事件現場
「今日は月が見えないなー。」
空を仰ぎながら少女が呟く。
時刻は午前0時を過ぎた頃。
眠たい目を擦りながら歩いていると、鉛色の空から白いものが降り注いできた。そのせいで今日は随分と冷え込んでいた。
「わぁー!雪だー!」
天気予報では、ずっと降ると云われていたのに今まで全く降らなかったそれは今年初。
綺麗と呟いて少女、アリスは少しはしゃいだ。
結構な粒の大きさをしている雪は徐々に降り積もり、彼方此方に化粧を施していた。
しかし、感動したのも束の間、風の勢いも急に増してきた。
天候が悪化してきたことを告げている。
「少しお腹空いたなー。温かいものでも買って早く帰ろっと。」
温かいものが売っているところをキョロキョロ探しながら歩みを早めるアリス。
けれど中々見付からない。
「探し物って探してる時は全然見付からないよね。この際、自動販売機でも構わないや。」
流石、深夜帯。辺りに人の気配はない。
独り言にしては大きすぎる音量で言われたその台詞は、更に大きい雪の音に飲み込まれていった。
「はあ。喜んだのは良いけど寒いや………あ!」
着いた溜め息も寒さを強調する色をしている。
しかし、突然、2人の大人が明かりの灯った場所から出てきた。
コンビニだ。
やっと見付けた目的地に心も足取りも軽くなるアリス。
「寒かったー。うわぁー!いっぱい雪が積もってる!」
手袋しておけば良かったと後悔しながらポケットからハンカチを取り出す。
店内に入る前にある程度、雪を払い落とそうと思ったのだ。
兎の刺繍が入ったお気に入りのハンカチ。
パタパタと雪を払う。
そんな時だった。
ゴウッ!
「ひゃ!冷たいー!」
突然の強風。
同時にハンカチがアリスの手からスルリと抜け出し、飛んでいってしまった。
「あー!私のハンカチがー!」
飛んでいった方向を見るも、辺りは真っ暗な上に、雪のせいで見通しも悪い。
「お気に入りだったのに…。はぁ。」
しょんぼりしながら入店した。
迷うことなく足を進めた先はレジ前。
「なっ!」
そして、目的のケースを見て絶叫した。