第5章 裏切り者
「……で?」
「ん?」
仰ぎ見る。太宰が手を降ろす。
「何で捜してたの?」
「ああ。『便利』だと思ったから。」
「成程ね。」
「怒らないのかい?」
「怒ると思ったの?」
サラリと人を道具のように云う太宰にアッサリ応じるアリス。
「まだ君が掴めないからね。」
「仲間にするのも苦労するだろうし、殺すのも苦労するだろうなーって思うくらいだものね?」
「その通りだよ。」
ニッコリと笑って肯定する太宰に、アリスはうんざりした顔を浮かべた。
「お兄ちゃんが道具扱いしている間は姿は現さないから。」
「道具なんてとんでもない。私達、恋人同士だろう?」
「はいはい。」
蔑んだ目を送る。
「不眠不休で君を捜したんだ。此れでお別れなんて、寂しいことを言わないでおくれ。」
「………そうやって今まで何人の女の人を泣かせてきたの?」
「憶えていないよ、そんなこと。」
嘘ではなかった。
実際は覚えているだろう。どんなに小さな事でも見落とさず、見逃さない男だ。
でも太宰にとって、この世の物事など詰まらないモノなのだろう。
平然と。
淡々と。
何かを見付けるために生きている。
「それは私も一緒、か。」
「何がだい?」
「只、生きていること。」
ああ、そうか。
『似ている』のか――。
「君はこの世界に何年いるんだい?」
「約4年かな。」
「思ってたより年期入ってるね。サラブレッド?」
「真逆。」
「へえ。」
会話は此処で途切れる。
それ以上は話さないことが判っていたから。
暫く歩いて、目的地に着く。
「ホテル住まいなの?」
「うん。楽だからね。」
安いビジネスホテルとは比べ物にならない構えのホテルの前で立ち止まる。
「この界隈のこの手のホテルの何処かに居るからご用の際は何時でもどうぞ。お金取るけど。」
「そうさせてもらうよ。」
そういってアリスはホテルの自動扉に向かう。
「どうせ。」
アリスが扉の前で一端立ち止まって、此方を振り返って手を振る。
そして扉を潜った瞬間。
「『此のホテル』では無いだろうし。」
アリスの姿は忽然と消えた。
見届けて踵を反す太宰。
「本当に厄介な人。」
そんな太宰を『その』ホテルの15階の部屋の窓から見ながら呟いた。