第3章 人攫い
此処はとある屋敷の玄関ホール。
天井には豪華なシャンデリア。
目の前には大人が10人程、横一列に並んでも通れそうな階段。
其の階段の踊り場には立派な絵画が掛けられており、その絵画を中心に左右対称に2階へと続く階段が延びている。
玄関ホールの壁にも左右それぞれに4つの扉。
階段の奥にも扉が2つ…見えている範囲で。
此処に着くまでには噴水もあったか。
所謂、豪邸という屋敷の中に、全くその屋敷に似つかわしくない黒尽くめの男達が7人。
その内の1人が、そんな豪邸に似つかわしくなくなってしまった玄関扉、で在ったものを足蹴にし、言った。
「探せ!」
「「「はっ!」」」
男達の中で最も小柄な男以外、一斉に走り出す。
その様子を少しだけ見届けてから小柄な男も歩き出した。
「無駄に広い家に住みやがって。」
もう少し人数を連れてきた方が良かったか。
ぼやきながら他の連中が行かなかった2階へと向かうも、踊り場で一旦立ち止まる。
却説、右から行くか、左から行くか。目の前に広がる絵画を見上げながら呟く。
「けっ、俺の趣味じゃねーな。」
其れよりも探し物だと、被っていた帽子の位置を調整し、取り敢えず右に行くことに決めたらしい男の靴が
カツンッという音をたてて何かを弾く。
「?」
弾かれたものを確認すると、それは鍵の形をしたネックレスだった。
「何処かの鍵か?否、そんな訳無いか。」
そう思うのも無理はない。
アンティーク調の鍵ではあるが、同じ材質の荊を模したものが巻き付いており、所々に薔薇の飾りまである。
鍵穴には絶対に入らない。
何処から如何見ても只のアクセサリーだ。
「……。」
何故こんな所に―――。
そう思うと、男は鍵をポケットに仕舞った。
そうこうしながら階段を昇りきる。
見渡した壁にあるのは、扉、扉、扉。
「……はあ。取り敢えず端から行くか。」
面倒臭そうに言いながら1番最初のドアノブに手を掛ける。
その時だった。
パタパタッ
「!?」
聞き慣れない足音を男の耳が拾う。
同時に、階下に居た連中までもが騒ぎだした。
「中也さん!今、誰か居たんです!」
「此方にも居ましたが逃げられました!」
「何!?……あっ!」
報告を聞いていると、直ぐに目の前に人影を捕らえる。
「待ちやがれ!」
中也と呼ばれた男は、その人影を追い始めた。