第14章 自覚(太宰side)
気付いたか。
太宰が黙った事で、理由等と教えずとも判ったのだろ。
そう判断した中也はアリスの名前を呼んだ。
如何やら側に戻ってきていたらしい。
『……何で中也兄とは仲良くお話ししてるのに私と話すと黙っちゃうの?』
シュンとしているのが声音で判る。
その顔が容易に想像出来て思わず笑みがこぼれる太宰。
「アリスが私を怒らせたりするからだよ。」
『えぇ!?私、治兄の堪に障る様なこと何か言ったかな!?』
「云ったとも。」
『うぅ……何れだろ……。』
ブツブツ言っている小声をスピーカはきちんと拾っている。
それは太宰だけが自覚した感情が故に、考えたところで答など出るわけがない。
それにも関わらず、どの発言が自分の怒りを買ってしまったのか必死に考えている様子のアリスが愛おしくて仕方がない。
もう少しの間、自分の事だけを考えて貰いたいところだが……。
先程、7時に中也を起こすと言っていた。活動を始める時間なのだろう。時計に眼をやり、あまり時間が無いことを自覚し、話を再開する太宰。
「ふふふ。その内、しっかりと教え込んであげるよ。アリスの言動の何が私を怒らせるのか。」
『う…うん?取り敢えず、気を付けます。』
「何時も通り話して構わないよ。口調のせいではないからね。」
『そっか…それもそうだよね。』
「本題に戻ろうか。」
『あ、うん。』
アリスと出会ってから2年弱。
『万能な異能力を持つ少女』
その力を利用するために関わっていた少女は、何時の間にか自分の中で違う存在へと変わってしまったようだ。
利用していたその万能な異能力が、少女の命を削っているかもしれないと知ったとき。
少女が生きることよりも死ぬことの方を望んでいると知ったとき。
他人のために自己を犠牲にしても構わないと云う自己犠牲の精神が強いと知ったとき。
そして何より。
自分以外の男性と一緒に過ごすことを赦せないと思ってしまったとき。
その瞬間に襲ってくる、今まで抱いたことの無い程の強い苛立ち。
嫉妬……か。
厄介な感情だねえ。
アリスと仕事の話ながらも、思考はその事で一杯だ。
然し、悪い気はしない。