第10章 予期せぬ再会
「……。」
その言葉に部下は押し黙る。
「所在が判ってれば話す機会なんて幾らでもある。兎に角、今日は駄目なんだよ。理由は幾つか在るらしいが…あいつが調子狂う日なんだ。」
中也が云うとアキトはハッとして小さい声で云った。
「きっと………命日だから。」
この声は誰にも届かなかった。
―――
賑やかな街中を独り俯きながら歩くアリス。かなりの浮き具合だ。すれ違う人達は皆、楽しそうにしており、子供達は嬉しそうに、はしゃいでいる。
「……何がそんなに楽しいの……」
誰にも聴こえない程の声で呟く。
その時、ぽふっと人にぶつかる。
「あ、ごめんなさい。」
「前を向いて歩かないからだよ?」
「!」
ぶつかった相手はアリスが良く知る人物だった。
「治兄……何してるの?こんな街中で。仕事?」
「もう終わったよ。折角のクリスマスイブだしケーキでも買おうと思って。」
「そっか。」
「………。」
俯いたままのアリスを黙って見る太宰。
暫くの間、この状態で過ごす。
「……一緒に行く。」
漸く口を開き、太宰の外套の袖を握るアリス。
太宰はアリスの頭を数回撫でると手を繋ぎ、歩きだした。
「何が良い?何れでも好きなものを買ってあげよう。」
「治兄、お金無いでしょ。」
「ケーキ買うお金くらいちゃんとあるさ!」
「社長か国兄に貰ったね?」
ギクッ
「はぁ。矢っ張り。」
「違うんだよ、アリス。此れには深い訳がだね!」
「別に興味ないよ。」
「はい…。」
慌てて言い訳し始める太宰を一蹴するアリス。
「……治兄。」
「何だい?」
「先刻、弟に会ったの。」
「!」
急に真剣な顔になる太宰。
「…弟がいたことが初耳だけど。」
「昼間にちゃんと話したじゃん。」
「『弟』なんて聞いてないって言ってるの。」
「別に性別まで云う必要無いと思ったんだもん。」
何故そこに拘るのか判らずに頬を膨らませるアリス。
「後で全部話してくれるんだろう?」
「………治兄が聞いてくれるならね。」
その返答に満足して太宰はフッと笑みを浮かべる。
「ケーキを買って早く帰ろう。」
「…ん。」
賑やかな雰囲気に馴染んだ二人は、そのまま人々の中へと消えていった。