第1章 情報屋
横浜の倉庫街。
人々が寝静まる時刻も相まって
辺りに人の気配はなく、自分達の足音だけが響く。
月明かりが写し出す2人分の影の長い方が、その静寂を先に壊した。
「今夜はいい月夜だねー。これで中也が居なければ最高だったのに。」
影の長いほう、基、太宰治は空を見上げながら呟く。
「奇遇だなぁ、太宰。俺も同じことを思ってたぜ!」
米神に青筋を浮かび上がらせながら短い方、基、中原中也が反応する。
「大体なぁ!何で俺が荷物持ちなんだよ!他の奴に遣らせればよかっただろうが!!!」
「おっと。」
手に持っていたアタッシュケースを振り回すも、太宰は飄々とかわす。
「私はそういう力仕事は得意ではないんだ。知っていると思うけど。其に、いいじゃないか中也。筋トレ出来て。」
「いいわけあるか!もうお前喋るな!」
「えー。喋るなって言われると余計に喋りたくなるのが世の常だよ。」
「お前が世の常とか抜かすんじゃねぇ!」
大声の出しすぎで少々乱れた息を整えながら自分の手に持つアタッシュケースに視線を移す。
「にしてもだ。幾ら俺達が証拠を探しても見つからなかった組織の情報を、他の奴がこうも簡単に見付けられると思うか?」
「思わないね。」
先刻までとは打って変わって真面目な口調で話始めた中也の問いに、太宰は即答する。
ーーー
ひと月前程から、ポートマフィアの傘下にある組織が、彼等と最も争っている敵対組織に寝返り、組織の密輸物資や貴重な情報を横流しにしているという事態が発生していた。
取引情報が軍警に漏れ、まともな取引が成立しないどころか、成立した取引でさえ、物資が届かない始末。
ポートマフィア全体で裏切り組織の割出に当たり、漸く1つの組織に絞るも確固たる証拠を掴めずにいたのだ。
此のままでは衰退の一途を辿るーーー
彼等の首領は双黒を呼び出し、命を下した。
「この界隈に、金を積めば如何なる情報でも確実に手に入れる情報屋が居るそうだ。その情報屋から証拠を入手し、速やかに事態を終息させるように。」
ーーー