第1章 叫びたかったので
「狼谷くーんこっちむいてー!」
なんであそこに混ざってんだ、あのバカ。
「狼谷ぃ~。ギャラリーに紛れて手振ってんの、あれ彼女じゃねえ?」
「違え」
「いやあれだろ?声かけなくていいの?」
「ほっとけ」
が俺の練習を見に来るのは珍しいことじゃない。狼谷くん今日応援にいくね、と宣言することもあれば予告なしにやってくることもある。それはいい。恋人に関心を持たれて俺も悪い気はしない。あいつが来る分には一向に構わない。
ただ、何でいつもあの鬱陶しい女共の中に混ざっているのか、それだけが問題だ。
「狼谷くんかっこいいー!がんばってー!」
聞き慣れた声の、聞き慣れない高いトーンにイラっとする。
からかってやがるのか、あいつ。そういうのは二人きりの時に言え。
「ちょっと外すわ」
「あ、おまえ彼女んとこ行く気だな!リア充め!」
「先輩に怒られてもしんねえぞー」
「うるせえ、数分で戻る」
部活仲間に返しながらギャラリーの中のそいつに向こうへ来いと顎で合図する。毎日下校時に待ち合わせをしているから場所は言わずとも分かるだろう。は俺の仕草にきょとんとしたが、頷いてそっとギャラリーを出ていくのが見えた。それを見届けてから俺も部活から抜け出した。