第1章 中学時代
教室に戻るとクラスメイトはすっかり帰宅した後で、意気消沈した様子の出久だけが残っていた。出久、と声をかけるまで気づかなかったみたいで、はっと私を見て笑みを浮かべる。
「おかえり、。もう日誌出してきた?」
「うん、待っててくれてありがと。…何かあった?」
「なんでもないよ。ちょっとぼーっとしてた」
出久はなんでもなさそうに笑ってみせるけど、勝己と何かあったのだろうなということは容易に想像できた。ホームルームで進路の話が出てからというもの、今日一日、勝己から出久への当たりは輪をかけて激しかった。さっきすれ違う前にも一悶着あったのだろう。一人で待たせて申し訳ないと思ったけど、出久が早く帰ろうと促すので、何も言えないまま教室を出た。
「出久、本当に雄英受けるの?」
「うん。無個性の僕がどこまで通じるかわからないけど、でも、やらないままで諦めたくないんだ。後悔したくないから」
オールマイトのようなヒーローになりたい。それは出久の、私の、そしておそらくは勝己の、昔からの夢だった。
同じ未来を夢見ていたはずだった。それが別たれたのは個性の発現。もっと言うと、出久の無個性が発覚してからだ。
三人並んでいたはずのスタートラインはぐちゃぐちゃにかき乱されて、何もかも変わってしまった。勝己はずっと高みから私たちを見下し、出久は必死に追いかけ、その間で私はおろおろと足踏みしている。本心をいえば、自分がまだヒーローになりたいのか、私にはよくわからなかった。ヒーローになるというのは私たち三人の夢で、それがばらばらになった今、自分の気持ちがどこにあるのか、まだ見つけられずにいた。