第6章 田中恵土:パスト(past)
理性が飛び
力のままに、絞り出し続けていくと
台風と炎によって、赤い火柱が上がり
私の全身からは、黒い稲光がほとばしり続けていた。
それが、後の『赤い夜』と言われた理由である。
赤い血もまた、同様に含まれながら。
怒りに、我を失った。
そして…
そのまま、破壊し続けるはずだった。
そんな中…
とんっ
恵土「!!!」
一つの違和感が、襲ってきた。
肩に触れる、温かさがそこにあった。
死骸ではない。
いつも、近くで感じていた…
毎日、隣に在った『温もり』を。
振り返ると、そこには祖父母と父母がいた。
そして、何度も何度も叫んでいた。
『ヴィランを殺すことが、俺たちのためになると思うな!!!』
『殺しても、生き返る事などできないわ!!』
『戦え!!沸き上がる怒りと、憎しみと!!』
『そんな事をしても、私は嬉しくない!!』
口々に、怒りに飲まれるなと叫んでいた。
それで殺していい命などない。
頭では、解っていた。
歯ぎしりしながら、私は拳を握り締めてうつむいた。
と同時に、爆風と炎は消えていった。
残されたのは、瓦礫となった家と
血にまみれた、惨状だけ。
まだ、炎に包まれていた。
その噴煙の中、崩れていく家によって落ちてくる柱…
その瓦礫の隙間から
こちらの様子を窺っている人がいるとも気付かぬまま
私は…
怒りのままに力を使うことを、踏みとどまった。
それでも…
だとしたら、この感情は……
一体、どこにぶつければいいんだ?
そんな思いと共に、顔をあげると…
そこには、まだヴィランがいた。
そして……
言葉が紡がれた。
私もまた、ヴィランになりかけた。
それでもなお、踏みとどまることができたのは…
きっと…
きっと、この力(霊感)があって
『殺されたみんな』の言葉を、聴くことが
望みを託されたからこそだと、私は幼いながらに解った。
「俺がここを襲ったのは…
お前の力を、奪うためだ」
そんな心中の中
静かになった家で、ヴィランの言葉が虚しく響いた。