第2章 八傑の血を継ぐ者
前向きであった。タケミカヅチは口角を微かに上げ、興奮しているのを抑えきれなくなっていた。
「ほう……言うではないですか。その前向きさ、嫌いではありませんよ。」
八咫烏も絶望しないタケミカヅチを見て、嬉しくなったのか笑顔を見せ、翼をはためかせた。
「今後もその調子で頑張ってくださいね。八百万界の命運は、八傑の力を受け継いだアナタとーー。」
ーーその血をまた受け継がせることのできる、唯一の独神。我らが主に懸かっているのですから。
🌸🌸🌸
絡繰りの時計が十一の所に針を指す。病?明けの私にとってはシュテンが始めて創られた英傑を相手に戦おうとした、という精神的負荷が大きすぎて、寝てしまった。
私が部屋に戻った後、皆どうしたんだろか……?新しい英傑君であるタケミカヅチは大丈夫だったのだろうか。
起きた後にも心配というか、考える事が多すぎて半身起こしていたけど、また、布団に仰向けになった。
「しっかりと自己紹介できてなかったな……。」
礼儀知らずにも程がある。シュテンやスサノヲに言えないじゃん!自分を棚に置く事になるじゃん……。
体を仰向けから左側を下にして横になった。
もやもや、そんな事を考えている時だった。
「主君……少しいいか?」
閉められている扉を、叩く音がした。それからつい昼間に聞いた青年の声も聞こえた。
「どうぞ。」
起き上がり、閉めた扉を開けると丁度考えていた本人がやっぱりいた。声の時点で彼だと思ってはいた。
タケミカヅチを自分の部屋の中に通すと、部屋の端に置いてある座布団の塔から一枚を彼に渡し、座る様に促した。
「どうかしたの?こんな夜更けに……。」
私にとっては好都合ではあった。そういえば、彼とはしっかりと話した記憶がない。
「いや……主君と話をしなかったと思い……。これから世話になるというのに、その主と直接話さないのはいかがなものかとーー、」
「話し掛けに来てくれたんだね。」
何と表現したらいいのか。目の前に正座して座る彼が言葉を探しながら言うのを、私なりに解釈した。
本来なら、こっちがそういう事をするのが正解だとは思うけど、彼は凄く礼儀が行き届いているなと感じた。
「足も崩して大丈夫だよ。それだけで怒らないし。……アイツ等といたら怒りの沸点も意外と高くなるから。」