第2章 八傑の血を継ぐ者
座っていたツクヨミは立ち上がり、座っている姉を見下ろす。
「主ちゃんは良くも悪くも、ワタシたちには嘘を吐かないじゃない!いつも。オネエサマはそう思わないの?」
「そうよね。」
「そうよ!」
そんな姉妹が主である独神について話していると、扉の向こうである廊下から大きな音が聞こえた。転んだ時に生じる音であった。
彼女達が直ぐにその音源が主ではないかと、悟った。彼女達が知る中では、廊下にいるのは独神だけである。
もしかしたら、仲間の誰かなのかもしれない。だが、力を失ったといえど簡単に転ぶような程、間抜けな者はいない。
「主ちゃん!!?」
廊下から、さっきまでこの部屋にあった声が聞こえる。痛みに訴える声が静かなそこに響いていた。
ツクヨミは慌てて声の主である独神の元へと駆けて行った。
部屋に残されたのは、アマテラス、只一人となった。
「でも……あの違和感は絶対……。」
それは、べリアルに独神が掴まれて二つになりそうになった時だった。
アマテラスは人一倍、人の魔力や霊力の察知能力が高い。気苦労があるからこそ、敏感になったのだろう。
虚ろな瞳でべリアルを見る独神は、意識がやっとある状態であった。そんな状態の独神から、得体の知れない恐怖を感じた。
紫水晶の様な透き通った目が、不気味に光る。微かに口角も上がっている。その時のアマテラスの体は、自身の意に反して震えていた。
今まで守らなければ死んでしまいそうな程、脆いと思われていたモノから感じる事が無かった不気味な、正体の解らない力。
『最後の力……?どういう事?私がコレをやったの?」
最後の力なんかじゃない。独神の力はまだ残っている。
表面上は力を使い切っていたのかもしれないが、アマテラスにはあの得体の知れない不気味な力の面影を感じていた。
(あの違和感は今は無いみたいだけど……。)
彼等の逃がした力は、全てを飲み込んで仕舞いそうな程の威力があった。普段の独神から想像のつかない程、大きな……。
その力が八傑の最後の力を飲み込み、独神を守ったのではないのだろうか。アマテラスはそう考えた。
その事をどうしてもツクヨミ達に言えなかった。あの一見して力が無さそうな非力な独神からは、想像がつかない事だったからだ。
アマテラスは首を数回振り、気持ちを切り替えて転倒した独神の元へ足を運んだ。