第2章 八傑の血を継ぐ者
八百万界の何処かにある島ーー自凝島(オノゴロジマ)。赤い鳥居が海の中にあり、三方を山で囲まれている。この島には大きな屋敷ーー八尋殿がある。
八尋殿の本殿には独神並びに、神代八傑の八人が暮らしている。
「主さま……起きませんね。」
「それ程、アタシたちの力が主ちゃんの体に負担な物だったってことよね……。」
本殿の一角の部屋にアマテラスとツクヨミがいた。彼女達は布団を挟み、向かい合っていた。
布団には一人の人間が寝ている。黒髪のあどけない寝顔が特徴の中性的な顔の人間。
「私……水を変えて来るから、ツクちゃんは主さまのこと診ていてくれる?」
「オネエサマに言われなくとも、そのつもりよ!」
隣に置いてある手拭いを掛けた桶を手に持ち、腰を上げる。
彼女達が挟んでいる布団にいるのは、独神。彼女達、そして彼女達以外の六人の主である独神であった。
見事、神代八傑の最後の力は独神の元に渡り、独神の力として体に吸収された。
だが、独神にとってその力は身体的に許容範囲を超えてしまう程の物であり、無事に秘術≪一血卍傑≫は出来上がったが結果、力に耐えきれずに気絶してしまった。
「えっ……主ちゃん!?」
アマテラスが独神の部屋の扉に手を掛けた時だった。ツクヨミの驚きの声に後ろを振り向くと、今まで寝返り以外で動く事が無かった布団の中の主が半身を起き上がらせていた。
突然の事にフラッと揺れる体をツクヨミは支えつつ、アマテラスは慌てて布団の横へと、さっきまで自分がいた場所へと戻った。
「主さま!?起きたのですね……!」
「ツクヨミ……アマテラス……?ここ何処……?」
支えられて起きた独神はまだしっかりと覚醒しておらず、急に体を起こした結果、貧血になったのか顔を手で覆いつつ、下に向けていた。
独神の頭の中では最後に見た光景が森の中であり、今いる場所はそこにしては文化が進んだ場所にいるとしか解らなかった。
「主ちゃんの部屋よ。≪一血卍傑≫後、主ちゃんは気を失っちゃって……あの後、自凝島まで皆で戻ったのよ。」
「そこまで時間は経ってないですよ。皆も主さまのこと、心配してますよ。」
自分が意識を失った後の事を彼女達は簡潔に、分かる様に話す。
「そっか……。やっぱり耐えられなかったんだね。」
独神は、二人に向けて苦笑いに近い笑顔を見せた。