第1章 プロローグ
「主さま……私たちはあなたのご決断に従います。ですが、くれぐれもよくお考えになってください。御身をお守りするのも、私たちの務めですから。」
アマテラスはそういう意図で言っている訳ではないのは、分かってる。でも、でも……追い詰められている気がするんだ。
ここで嫌だと言えば、皆は結局べリアルに蹂躙される。そして、八百万界は支配下に置かれてしまう。
かと言って、やると言ってしまえば力と命を代償にしないといけない。皆は力だけだけど、私は力ではなくて命を懸けなければいけない。
失敗すれば同じ様に最悪の結末になる。そして私もこの界からいなくなる。
「何時から私は主になったんだろう……。」
皆に聞こえない位の大きさの声で、独り言を口にする。結局は”主”という位で責任を全て押し付けられているような、私は只の八百万界の住民なだけだったのに。
何で私は主なんだ……。独神でなかったら、こんな事で悩まずに済んだはずなのに……。
「……。」
早く決めないといけない。そんな時に嫌な事を考え始めた私に、誰かが触れてきた。
その手は温かくて、触れている場所は頬。生きている人の手。自然と落ち着きを取り戻してきていた。
「いって!!」
そんな矢先に触れてきた手が頬を抓る。抓った本人を見やると真顔でこっちを見ていた。
「タケル!おまーー、」
「大丈夫、お前は死なない。」
そう言いながら更に両方の頬を抓り始める。
何気ない一言。本当に一言だけなのに、その言葉がスーッと私の中に入っていく。
私は死なない。何時かの日にその言葉を言われた気がする。ああ……何だろう、悩んでいたのが馬鹿だった。
やってみなきゃ分からない。命を懸けなくてはいけない事でも。
でも、心の持ちようで先の結末が変わるかもしれない。変わらないかもしれない。
「ーー≪一血卍傑≫をする。それが主の答えだな?」
結局、絶望にいて悩まなきゃいけないんなら、危ない橋でも渡ってしまおう。悩むだけ絶望が更に侵食していくだけ。
頷いて肯定するのを示す。表情が変わったから、覚悟を決めたのだと彼はそう思ったに違いない。
「いいだろう、お前の覚悟……確かに受け取った。残された一縷の望みに賭け、我ら神代八傑……最後の力を、その掌に託そう。」
掌を上に向けるとタケルを筆頭に、全員の手が重ねられる。