第3章 ◇ episode 02
腰を下ろした後パッと顔を上げ辺りを見てみれば、あらゆる物陰から長谷川が言っていたチキンな男達の視線がこの店に集中していた。さすがに気持ち悪くなり、さっさと食べて退散しようと店の中へ向かって声を出した。
「おーいおばちゃーん団子4つー、なるべく早くねー。ゴキブリの逃げ足みたいに早くねー。」
「あらあら銀さん、やめとくれこんな汚い店とは言えそんな虫の名前を出すのは。」
銀時が声を出した瞬間店の中から一人の女性が出てきた。典型的なおばさんの様な素振りで銀時に言葉を返す。その間に新八達も椅子へ座りまだかまだかと団子が来るのを待つ。
だが一向に団子が出て来ず、そのおばさんも店の中へ入って行く様子も無い。銀時は急かす様にペラペラと話し続けるおばさんの会話を遮る。
「もう分かったから早く団子持ってきてくんない?アイツらの視線に耐えられないんだけど…。」
「あぁ、ごめんよ!本当に最近の若いのは意気地無しで困っちゃうよ全く。ちゃん急いで〜!」
どうやら男連中の事はおばさんも気付いているらしく、呆れた様子だった。そして聞き慣れない名前を店の中に向かって呼べば、はーいと中から女の声が聞こえた。話題になっている女の正体はきっとその声の主だとすぐに分かった。銀時がそんな事を考えているとおばさんが申し訳なさそうに、そして切なそうに話し始めた。
「ごめんね、最近ここで働き始めて貰ったもんだからまだ団子作りには慣れていないんだよあの子。」
「娘さんか何かですか?そういえば一回も見た事無いですけど。」
その女について少し語れば、新八がおばさんに問う。しかしその質問を聞けば両手を横に振り、娘では無いと否定をした。
「私には娘は居ないよ。主人もだいぶ前に亡くなって独り身さ。寂しかったけど、今じゃあの子が居てくれるから寂しさなんて吹っ飛んだよ。我が子を持つっていうのはこんな感じなのかねぇ。」
そう話すおばさんの表情はやはり切なそうだった。しかし幸せそうにも見えた。