第3章 ◇ episode 02
「……………。」
銀時はイチゴ牛乳を掴んだ瞬間固まってしまった。何故かと言えば、そのイチゴ牛乳に手を伸ばし掴んでいる手が自分とは別にもう一人居たからだった。
暫くすれば手を離すだろうと思いそのまま微動だにせず体勢を保っていたが、その手が引くことは無く、次第に引っ張り合う形になっていた。その様子を大人気ないと思いながら見つめる新八と神楽。そんな事も知らずに銀時ともう一人はイチゴ牛乳を取り合った。
「……お、おい、誰だか知らねェけどコレ俺が先に触れたから。コレ俺のだから。」
「いいえ、私が先に触った。私の爪が先に当たった。だからコレは私の。」
「ふっ、女かよ。女のくせにこんな甘い物摂ってたらぶくぶくになって婚期逃すぞコノヤロー。」
「そっちこそ男のくせにこんな可愛らしい飲み物飲んでるなんて女子力高いのね。笑っちゃうわ。」
銀時は取り合っている相手が女だと声を聞き初めて気付く。だがそれでもイチゴ牛乳への執着心を拭い切れず、負けじと取り合う。新八と神楽は呆れ返り、何も声を掛けずコンビニから出て行った。
イチゴ牛乳に必死になるばかりに新八達が居なくなった事にも気付かず銀時と女は周りの目も気にせず奪い合っている。
「ち、ちょっと、しつこいんだけど。知ってる?しつこい男って嫌われるの。」
「その言葉そっくりそのまま返すわ。」
イチゴ牛乳を巡りコンビニで繰り広げられる何とも低レベルな喧嘩。お互いに指、手に集中的に力が入っている為かプルプルと震え始める。そんな中痺れを切らした女が怒り任せに言葉を発した。
「…っ。レディースファーストって言う言葉、知らないわけ!?」
「知りませーん!!悪いけど俺コレ飲まなきゃ死ぬから。」
「アンタみたいなの死んでも誰も悲しまないから!!」
「何だと!?」
「何よ!!」
この瞬間ようやく二人はお互いの顔を確認した。そして数秒お互いが電源が落ちたかのように動かなくなり瞬きをしないまま見つめ合っていた。
銀時の目の前に居たのはこの前自分に斬りかかって来た女であり、女の目の前に居たのはこの前自分が斬りかかった相手だった。