第2章 ほしいものは
学生なら誰にでも等しく訪れるもの。はい、定期試験であります。
「だからそこはこの公式だって俺に何回言わせんだ!あぁ!?」
「はい、直します!ごめんなさい!!」
イライラ全開でテーブルを叩く勝己くんに泣きそうになりつつ、訂正箇所を必死に書き直した。
試験週間が訪れると、幼なじみの勝己くんはいつも私を自宅に引っ張り込み、(半ば無理やり)勉強を教えてくれる。
昔からいずくんと並んで鈍くさい私を、案外面倒見のいい彼は放っておけないのだろうが、それにしてもやり方がスパルタである。これなら一人で勉強したほうがマシだと思うもののもちろんそんなことは口に出せない。言った瞬間に灰にされる。個性で木っ端微塵に吹き飛ばされる。
ちら、と向かいの勝己くんを伺えば、彼が目を落とすノートは数式がずらりと並んでいる。勝己くんは性格はアレだけど頭が良く、大抵のことはそつなくこなしてしまう。そんな人に目をかけてもらってると思うと、怖いけれど、ほんの少し誇らしくもあるのだ。
「勝己くん」
「あ?んだよ、さっきの問題終わったのか」
「今度のテスト、がんばって成績上げるね」
「たりめーだろ、誰が勉強見てると思ってんだ。落としたら爆破すっからな」
「うん、それでね、無事にテストが終わったら何かお礼するよ。勝己くん、何してほしい?」
「は?」
「いつも勝己くんにはお世話になってるから、私も何かお返ししたくて」
私から頼んだことではなくても、確かに私の実になっていることだし、名門校を目指す彼がわざわざ私のために時間を割いてくれているのだ。されっぱなしというのはさすがに気が引ける。
今までそんな申し出をしたことがなかったからか、勝己くんは目を丸くしたけど、すぐに鼻を鳴らして作業に戻った。礼なんて生意気なこと考えてんじゃねぇよボケ、っていうのはきっと勝己くんなりの気遣いだったんだろうけど、それじゃ私の気が収まらない。
「ね、そんなこと言わないで。なんでもしてあげるから」
ノートの上の勝己くんの手を包み、ね?とだめ押しで微笑むと、彼のもう一方の手からぽろりとシャーペンが落ちた。惚けたような顔が、私を見つめてなぜかじわじわと赤くなっていく。噴火の前ぶれだろうかと私が身構えた直後に、部屋を揺さぶる怒声がぐわっと響いた。