第15章 *黒猫の想い人【番外編】
あやねが俺の首に抱きついてきた。
それだけなのに、あやねからしてきたってだけでスゲー照れてる自分がいた。
にやける口元をバレないよう手で押さえて咳払いをする。
「で、あやねさん。やっぱ俺と付き合って下さい」
「だから付き合わないよ」
「何でだよ。付き合う流れだろ」
「ごめんね。クロの事は好きだよ。でも、幼馴染から恋人にはなれない…」
これ本心だな。って思った。
そしてその背後に研磨がいる事も分かる。
昔っからそうだったからな。
二人だけで遊んでても、一歩も二歩も距離を置く研磨をずっと気にして、顔色を伺って機嫌を損ねないように行動してたから……きっと、状況が変わる事に怯えてんだ。
「きっと喜んでくれると思うけど?」
「……普通に話せるクロには分からないよ。失いたくないの…」
俺に抱きつく腕に力が入った。
そんな切ない声で目の前にいる俺より、真剣に研磨の事を考えるあやねはまるで片想いに苦しんでいるみたいだった。
きっとこの先、その想いに気付くんだろうけど…気付くのは今じゃない。
「だったら秘密にする?俺達の関係」
「え?…….ダメ」
そう言って冷静になったのか、あやねは俺から離れると少し乱れた制服を綺麗に直し、机に置いていたカバンを肩にかけた。
「クロ帰ろ。今日の事は忘れよ。その方がお互いの為だから」
何事も無かったように笑うあやねに、俺は心の底から腹が立った。
「何がお互いの為だよ…」
俺が睨むとバツが悪いのか顔を逸らす。
「あやねにとって都合がいいだけだよな?」
「クロ…気持ちは嬉しいんだよ?でも、やっぱり今まで通りがいいの」
あやねは俺を見る事無くそう言って、動く事の無い俺に『先に帰るね』って困った顔で笑いながら言った。
先に歩き出すあやねに俺は駆け出し、後ろから思いっきり抱き締める。
抱き締めたあやねにどんだけ俺がお前を好きかってのが伝わればいいのに…。