第15章 *黒猫の想い人【番外編】
誰もいなくなった教室は夕焼け色に塗り替えられたようで、昼間の明るいガヤッとした煩さとはかけ離れた、どこか異質な空間に思えた。
一人でポツンと俺を待つあやねは窓の外を眺め、風に揺られた肩まで伸びる黒髪をなびかせていた。
時折揺れる髪を指で耳にかける仕草は何度見ても女を感じる瞬間で、いつも見ていたあやねがいつもと違う教室の中、夕陽に彩られる姿が純粋に綺麗と思う反面、不純な程色っぽくもあった。
あやねの教室に入ると、俺に気付いたあやねは夕焼け色の中柔らかく微笑んで俺の名前を呼ぶ。
「クロ遅かったね」
「悪りぃ。なぁ、俺と付き合わねぇ?」
そう口に出した時のあやねの顔を忘れた事は無い。
さっきまで見せていた女らしさも消え、口をポカンって開いて俺の事をただ無言で見てた。
「なんか言えって」
「え……っと、あ、あまりに突然で…」
ああ…こりゃ困ってんな。
まっ、こうなるの予想ついてたけど。
俺は今だに風で揺れる髪に優しく触れ、髪を耳にかけるように手を滑らせる。
その行動にすら驚くあやねに俺は唇を重ねていた。
あやねの返事や了承を得る事無く行動に移した俺。
嫌われる事は絶対に無いって自信だけはあった。
すぐ唇を離せば状況を全て理解したあやねは真っ赤な顔をさせて、口元を手の甲で隠してる。
そんな姿にさえ愛おしさは増す。
「く、クロなんでこんな事…」
「そんなの決まってんでしょ」
「あっ…やっ…ん」
俺はそのままあやねに迫って首筋を唇で鎖骨の方へとなぞるように下がっていけば、あやねから聞いた事も無い甘い声に止まる事が出来なくなっていた。