第9章 猫⑨
「おれ、あやねが好きだから」
「……へぇ、俺に言うって事は」
「明日あやねに言うつもり」
「……………」
自然と俺の顔から笑みは消えた。
視線を外す事無くずっと俺を見る研磨、こんな目をさせてる時は誰が何言っても結果は同じだ。
研磨がやるっつたらやる男だからな。
「そうか…」
俺は瞳を閉じ、あやねを思えば嬉しそうに笑う姿だった。
ゆっくり開き研磨の肩に手を乗せ、僅かに口角を緩める。
「研磨になら任せられるな…」
「…クロ?」
「幼馴染としてお前らが上手くいく事…祈っとくわ…」
それだけ伝えて俺は研磨より先に歩き出すが、いつもなら少し後ろにいる研磨は俺の直ぐ横を歩いていて、俺が足を止めると『クロ』って呼んで俺を待つ姿は今まで感じた研磨とは違う。
こうだ。と決めた時の研磨は真っ直ぐで自信がある……本当、かっこいいんだよな。
「研磨、今度アイスおごれよ」
「何それ…」
『意味が分からない』って渋い顔させる研磨に、そりゃそうだって心ん中で俺は苦笑いをする。
勝手にあやねを譲った気になってるから。
そんなんじゃ無いのに…ただ、俺がフラれただけだってのに、かっこつけて……。
「クロ、アイス食べたいの?」
「いや、やっぱいいや。それより明日会う約束してんのか?」
「してない」
「えっ!?してないのか?」
頷く研磨に、それ大丈夫なのか?って変に心配になってくる。
やっぱ、こうだって決めると行動早いな…俺とは違う。
結果の良し悪しを考えて、悪いのが分かってると行動に起こせない…。
「後でメールする。明日、部活の後あやねん家行って来る…」
「そうか。まっ、上手くいったら教えろよ?」
「うん。クロには言うよ」
「ああ、連絡待ってる…」
俺達はそれ以上話す事無く帰宅した。