第9章 猫⑨
あやねの部屋から出た俺は、暗くなる道をゆっくりと歩き最後に見たあやねを想っていた。
恋人と友人で出来る事がこんなにも違う事を痛感した……涙も拭いてやれない。
「……つれぇな」
しばらく歩いてると後ろから来た車のヘッドライトが照らす先に、俺と同じジャージを着たやつが立っているのが分かった。
「研磨っ!!」
そう呼んで手を振れば研磨が俺に気付いて小さく頷く。
研磨は動かずに俺を見てる、そうやって俺が研磨のところに行くのを待っている。
研磨らしくて、俺は思わず笑っていた。
そんな当たり前の事にどこか心が救われたような感覚になっていた。
「クロ…早かったね」
「あ?そうか?」
まるでどこにいたのか知ってるような言い方が気になった。
「どこにいたのか知ってんのか?」
「…あやね」
「…………」
「嘘つけないよね」
「あ〜、そうだな」
風呂から出た時、あやねがスマホを持ってた事を思い出し、風呂に入ってる間にやり取りがあった事が分かった。
「珍しいな、研磨があやねに連絡すんの」
「あやねと話したかったから、でもその前にクロだって思った」
「だからここで俺待ってたのかよ?」
そう言えば頷く研磨の瞳は試合の時に感じる強さに似てる。
「で、何話すんだ?」
俺はいつも見せる強気な笑みを作るけど、研磨には関係無い。