第8章 *猫⑧
「…はは、こんなに怖いと思わなかった。あやね、お前にとっての俺は?」
「……大切な幼馴染」
「…そう、だよな。あやね、研磨に気持ちぶつけてみろよ」
「クロ…」
「あやねの気持ち、考えてやれなくて悪かったな」
優しく微笑むクロの大きな手が私の頬に触れる。
暖かな手のひらにクロの優しさを凄く感じた。
「そうだね、ちゃんとぶつけてみる」
「ああ。なあ、これだけは聞いときたいんだけど…」
「何?」
クロは一瞬躊躇うように口を閉じたが、直ぐに私へ向けて口を開いた。
「俺、うざったい?」
不安そうなクロに私は顔を左右に振る。
「うざったくない。大切な幼馴染だよ…」
「そっか……ありがとな。それと、俺最低な事したんだけど聞いとく??」
「何か怖いんですけど…やめとく」
一体最低な事って?とは思うけど、これ以上はクロの傷をえぐるつもりは無いから聞かなかった。
すると、クロが私を抱き締める。
「あやねも研磨も大切な存在だ。それだけは変わらない…」
「うん、私も同じだよ」
私の耳元で『最後…』と言って、クロが私の唇を奪い、離れたクロはいつもの意地の悪い笑顔を見せていた。
「じゃあな、忘れんなよ?」
戯けるように言ったクロに、なぜか私の頬を暖かなものが流れる。
私が流していいものじゃないのに…我慢しようとすればする程溢れだす涙。
クロは困った顔で弱く笑顔を作るが、もう私に触れる事はなかった。
「あやねに触れたくても、俺が触れるのは違うから…悪い。何もしてやれねぇわ…」
「ご、めん…迷惑か、けて…うぅっ…」
「あやね…」
「ごめ…かえ、っていいから」
涙を乱暴に拭うと笑顔をクロに向ける。
「またね…」
「…ああ、またな」
クロが荷物を持ち私の前からいなくなると、玄関のドアを開けて出て行く音だけが部屋に響き私は床に倒れ込むように崩れ涙を流した。
我儘を言って苦しめたのは私。
クロごめんね………そして、ありがとうクロ。