第1章 猫①
「……やっぱ、研磨は私に心開いてくれないな…」
「まっ、アイツは人見知りなくせに人を良く見てるから。そのうち慣れんだろ?『クリア出来ないゲームも繰り返しやれば慣れる』とか言うやつだから」
ゲーム……。
繰り返しって言うけど、私から近寄ってもいつもあんな感じで繰り返す以前の問題だよ。
私は小さくなる研磨の背にいつも悲しくなっていた。
「そ、れ、よ、り、今は遠くの研磨より近くの俺だろ?」
ニカって笑うクロは親指で自分を指して注意を引こうとしてる。
「クロはいつでも会えるし、普通に話せるからいいの!」
「んだよ、それ!!この男前が目の前にいて『いいの!』とは何だよっ!」
「…で、用って何?」
私がそう切り出せば、さっきまで不貞腐れてた顔にまた笑みが戻る。
なんとなく予想はつくけど。
「いや、“どう”かなって」
「またそれ?…今はそんな気分じゃ無いんだけど…」
クロの言う“どう”とは単刀直入に言えば“エッチどう”の意味。
私とクロは以前に身体の関係を持っていた。
いわゆるセフレ。
今はその関係も解消してはいるが、最近また戻らないかって言われてる。
はっきりとしない私の態度にクロは逞しい腕で私の肩を抱く。
「俺よりやっぱ研磨??」
「……………」
「別に俺はそれでも構わないけど?」
耳元で囁くクロの息がくすぐったくて身体をよじれば色気を漂わせた笑みをクロは浮かべる。
クロのそういった部分は正直好き。
高校生なのに大人顔負けの色っぽさを持つクロは、自分で言うのも分かる程男前何だと思う。
「クロはずるいよね」
「何が?」
「分かってるくせに。本当に高校生?」
「はははっ!それをお前が言うか?正真正銘高校生だろ?部活休みだから体力ありあまってる高校三年だよ」
「それ……怖いよ」
「まっ、覚悟してね」
語尾にハートマークでも付きそうな程機嫌のいいクロに促されるまま、心に研磨を潜ませて研磨とは逆の道を私はクロと歩いた。