第1章 猫①
「おっ、あれあやねじゃねぇ?」
そう声を出したクロの言葉の先には昔からあまり変わらないあやねの後ろ姿が見えた。
長い黒髪が歩く度に揺れていて、そのふわふわと揺れる髪に思わず触れたくなるのは昔から思っていた事。
隣にいたクロが大きな声で呼べば、すぐに振り返ってあやねは笑いながら手を振る。
そんなところも昔から同じ。
クロはおれを置いて先にあやねのところに行って『こんなとこで何してんだよ?』って話出す。
そんな光景をおれはいつも遅れて二人の元に行って言うんだ。
「研磨久しぶりだね」
「うん……クロ、先行く」
「おう、俺ちょっとこいつに用あるから」
「分かった」
チラッとをあやね見ればいつも同じ、少し困った笑顔。
「研磨またね?」
「うん、また」
おれが通り過ぎてしばらくはいつも二人は何も話さない。
たぶんおれの事、二人で見てんだと思う。
悪いかなっていつもあやねに会う度思うけど、昔からクロと仲がよかったあやね。
おれの2こ上でクロの1つ上、おれ達の歳上の幼馴染。
とは言っても、おれとあやねは昔からこんな感じでほとんど話さない。
それは、昔からクロがあやねを好きであやねもクロを好きだから、おれはいてもいなくても同じ。
二人の邪魔をするつもりは無いのに、たまに思う………あの揺れる黒髪に触れたいって。
なんでなんだろう……。
これが今まであった、変わりないおれ達の関係を変える、小さくて大きな変化だった。