第5章 猫⑤
「そうだけど…ノートやっぱ大丈夫」
「えーっ!?いいの?まぁ、孤爪くんがいいならいっか!ところで、黒尾先輩って今フリーだったよね??好きな人いるとか言ってた??」
よく喋る女子を横目で見ると、今までならばきっとクロはこの子でも付き合ってたんじゃないかな。って思うぐらいには可愛いと思う。
黒髪も長くて真っ直ぐで……後ろ姿ならばあやねとそう変わらない。
変わらないのに……。
全然違うんだ。
「ごめん、あんまそういった話しないんだ」
「あ、そっか…じゃあ仕方ないね」
それだけ言うとおれの横を通り過ぎて行く。
その子の髪は激しく左右に揺れていて、あやねを重ねる事は絶対に出来ないと気が付いた。
ゆらゆらと揺れるあやねの黒髪、思わず触れたくなって、いつも思い出すあやねはそんな姿だったのになぜさっきは違ったのか……。
おれはさっきの女子を目で見てその理由に気が付く。
その女子はすでに他の女子と楽しげに会話をしていて、あの子あんな表情してるんだって初めて分かった。
あやねも同じ。
今まではずっと、あやねの後ろ姿ばかり見ていたから。
あやねの表情をちゃんと見てなかったから……だから、おれはあやねの黒髪ばかり思い出していた。
あの女子のように、あやねもおれを見て無いだろうから…おれも見ないようにしてた。
ずっとあやねはクロを好きだと思ってたから。
なぜか心が軽くなっていく。
クロを好きじゃないあやねだからどうしたって言うんだろ。
どっちにしろおれには関係無いのに。
ふと黒板へ目を向ければ、日直が綺麗に消し終えた後だった。