第5章 猫⑤
何であんな事言ったんだろ。
『あやねとクロはお互い好きなんだと思ってた』
これじゃ、まるで想い合って無いって言ってるようなもんなのに。
言った事、後悔してるのかな。
クロはただ笑ってたけど。
おれは午後の授業中、机に頬杖をしてぼんやりとその事を考えた。
教室ではおれを置いて進む授業、教師の声は頭の隅に微かに届くけど、すぐにあやねの事を考えている。
ゆっくり瞳を閉じればいつもの後ろ姿じゃ無い柔らかな笑顔。
おれは触れたあやねの髪を思い出しては指を動かす。
そこにあるはずの無いあやねの髪を思い、笑顔と同じ柔らかな感触を思い出した。
すると、授業を終えるチャイムの音に目を開き現実を見る。
ノートをほとんど写してなかった。
黒板に残され授業内容を慌てて写していくと、突然おれの横にノートが現れて驚いた。
「これ、良かったら写す??」
「え?あ……いいの?」
「うん!孤爪くんって確かバレー部だったよね?」
ノートを貸してくれると言うクラスの女子は、親切でノートを見せてくれるわけじゃ無い。
おれを透して違う人を見てる。