第4章 猫④
震えるスマホを取り出して見ればあやねからだった。
『昨日はごめんね。やっぱりクロとはもう戻れない。こんな半端な気持ちじゃお互い良く無いよ。クロの事大切な幼馴染だって思ってたいから。私、勝手過ぎるよね。本当にごめんなさい。それと、私のバックにクロの私物入ってたから返しとく。じゃあ、またね。』
何だよこれ……。
ハンパなんはあやねだけだろ。
無意識にスマホを握る手に力が入ってた。
「……研磨悪りぃ、ちょっと先に俺の部屋行っててくんね?」
「どうかした?」
俺を見た研磨がすぐに分かったんだろな。何かあったんだって。
その通りだよ。
「ちょっとヤボ用!すぐ済むから逃げずに俺の部屋行けよ!!」
誤魔化す為にワザとふざけて研磨を部屋に行かせる。
渋々と家に入るのを確認してすぐにあやねに電話しながら、俺の部屋から見えないように角を少し入ってブロック塀に寄りかかった。
何度も呼び出す音が流れるも、一向に出る気配がない。
出ないなら留守電に入れるつもりだったが、あいつ留守電に繋がるまでに時間がかかる奴だって思い出す。
その時間がもどかしくもあり、どんどん腹が立ってくる。
「チッ!!出ろ、あやね!」
こんなに切羽詰まる思いは試合に似てる。
あと1Pで試合終了の笛が鳴る時の…研ぎ澄まされた感覚は足のつま先から頭の先までが全部神経が通ったように敏感で、試合の独特な空気感はおっきな水の入った水槽に浸かってるみたいで、相手が動けばその振動でどこに動けばいいか自然と分かるような……。
試合は相手の動き全てを見て動けばいいが、恋愛は相手の動き全てが見えないから下手に動けない。
まして電話なんて一方的なもんだ。
掛けた相手は繋がるのを待ち、掛けられた相手は繋がるのを断つ事も出来る。
惚れた方が圧倒的に劣勢だ。