第7章 其ノ陸
部屋を覗き見ると兄と、二つの影が…二つの唇が重なる。
二『な……』
溢れ出る涙を拭うこともなく走り出し、裏の森の中へと入ってゆく。
しばらく入った所で座り込んで静かに涙を流す。
どのくらいの時間そうしていたのだろう。
『いかが致したのじゃ? 迷ったのか?』
二『いえ…。 何でもございません。』
突然現れた侍に後ずさりする。
『けして怪しいものではございませぬ。
私、国分…叉の名を、伊賀の影丸と申します』
二『影丸…は、どこの者だ。 徳川か…』
何も持たぬまま来てしまったし、いきなり攻撃されては…
国『私はどこにも属しておりませぬ。流れの忍者にございます。
この奥には若い男を狙った輩がうようよとしておりますゆえ私が、御自宅までお送り致しましょう。』
目を見て、この者が嘘は言っていないと判断する。