第4章 ホーンテッド・スクール〔日吉若〕
「く、暗…」
そう口に出してしまった瞬間、何かに蹴つまずく。
ひっ、と声にならない声が出て、思わず目の前の日吉の腕に掴まった。
歩みを止めた日吉が振り返って、これ見よがしにため息をつく。
「お前、本当鈍臭いな」
「…ごめん、なさい」
もちろんドジを踏んだ私が悪いのだけれど、いちいちカンに触るやつだ。
懐中電灯の明かりが足元に振られて、べろりとめくれ上がったマットが照らされる。
「いつもマットごときで転ぶのか、お前」
「いや、見えなかったから。ごめん」
「お前が持ったほうがよさそうだな」
日吉は「また転ばれても困るし」とぼそりと言って、強引に懐中電灯を私の右手に握らせた。
え、と顔を見上げると「ほら、さっさと行くぞ」と左腕を引かれて。
日吉のペースに引きずられるように、長い廊下をずんずん進む。
「関係ないところじゃなくて進路を照らせよ、持たせてるんだから」と例によって嫌味たらしく怒られたことよりも、掴まれたままの左腕が気になって。
暗闇への恐怖を感じる暇がないのは、とてもありがたかった。
F組の教室にたどり着いた。
日吉がゆっくり扉を開けると、カラカラと乾いた音がした。
扉の右側にある照明のスイッチを懐中電灯で照らそうと、明かりと視線を動かすと。
窓際。
ふっと動く、白く大きな影。
瞬間、心臓が縮み上がる。
「きゃああああ!」
やだ、何かいる。
怖い、怖いよ、どうしよう。
見たくなくて、目をぎゅっと瞑る。
こっちに来たらどうしよう。