第1章 熱帯夜
香苗からすると、啓太は可愛らしい後輩だ。
あどけなくて、真っすぐで、それゆえ少し危なっかしい彼。
それを時に諭し、時に叱り、制御させるのが自分の役割だと彼女は思っている。
姉とか母親、または保護者。
自分はそんな立場にいるのが、彼にとって一番いいのだと信じて疑わない。
他人はあたしを「モテモテの恋愛上級者」だなんて言うけれど、果たしてそれが幸せなのかは分かってくれない。
恋愛すると成長すると言うが、つまりは傷付くこともあるということだ。
もちろん楽しいこともあった。確かに愛したし、思い出もいっぱいある。
しかし思い出したく無いようなこともいっぱいあったのも事実だ。
暴力、脅迫、浮気、ストーカー、強引なセックス。
あたしはそんな「恋愛」という人間関係に、いくらか疲れてしまったんだろう。
香苗は啓太の髪を手で梳きながらそんなことを思う。