第14章 ★約束(4)
指は2本のまま、親指で尖った芽にも圧を加えて擦り始めてから、天海に変化が生じた。
「あっ、はぁ…わか、とし、くんっ…」
掠れた声に少し溶けた瞳、それらを俺に向けた天海が苦し気に言う。
「…わかとしくん、が…欲しぃ…」
――その意味を問うほど、無知ではない。
俺自身ももうだいぶ前から身体の中心が硬く熱を帯びており、身に飼う獣はいつでも欲望を吐き出せる状態だ。
「わかと、し…くんっ…あっ、あっ」
「いいのか…天海」
俺は瞳を覗き込んで尋ねる。
何のための確認なのか自分でもわからぬまま。
少し汗ばみ、頬に髪を貼り付けながら、天海が首を縦に振る。
俺はジャージの上着をベッドの横に脱ぎ捨てた。
天海ほどではないが、知らない間に俺自身も発汗していたらしい――脱いだシャツが湿り気を帯びている。
天海は、息を整えながら、何も言わずにやはり自分の衣服を脱ぎ始めていた。
胸を隠しながら俺に背を向けて下着を外す、その仕草が官能的にも思え、俺は後ろから抱きしめそうになった。
その天海が、靴を脱いでる俺に対して、遠慮がちに話しかけてきた。
「あの…若利くん…」
首を巡らせて天海を見やる。
天海は俺に背を向けたまま、手に持っていた小さな袋を突き出してきた。
「その…これ…」
失念していたことに気づく。
「…あぁ、すまん」
「お願い…します」
気持ちごと受け取り、俺は身支度を整える。
天海はこちらを向かずに「…ごめんなさい…」とも付け加えた。
「なぜ謝る?」
「だって…自分から、欲しいとか…」
「そうしてはいけない理由でもあるのか?」
俺は率直に抱いた疑問を口にして、ベッドから腰を上げると天海の正面に回り込んだ。
「俺はお前が欲しい。お前も同じように俺を欲した」
俯く天海の顔を指で掬い上げ、恥じらい揺れる彼女を注視する。
「俺が求めて、お前も求めた。謝る必要はあるまい。俺は…お前の言葉を借りるなら“嬉しい”が」
顔を隠す髪を耳にかけてから、天海の唇に触れ、指でなぞり、軽く口付ける。
「俺はお前が好きだ。どんなお前であっても。お前の全部が欲しい」
ゆっくりと、俺は彼女を組み敷いた。
「俺のものになれ、ありさ」