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【HQ/R18】二月の恋のうた

第28章 片翼の鳥(4)


「本当に面倒くさいから言いに来るのはこれっきりだ」

言い置いて彼女は手首に視線を走らせる。
時間を確認したようで、ソファに置いていたバッグを手に取って中を覗き込みながら「牛島クン」と俺へのメッセージを告げる。

「拳で3発は殴りたかったけど時間も無いし平手打ちの1回にしといてあげる。…アンタが周りの迷惑とか気にするんなら、そっちの、何だっけ、大平クンか、彼が言ったみたいに天海を“連れ戻す”、それが1番だって理解しな」
「俺は――」
「アンタだけじゃなくて、総体的に、チーム的に、プラスだよ」

反駁を遮って強く言い残した“先輩”は「ったく、不器用ばかりで疲れるよ」と舌打ち混じりにひとりごちて、バッグから何かを取り出すとそれをテーブルの上に叩きつけるように置いた。

その場の男全員が覗き込むように見つめた――口調と態度にそぐわない女性らしい手が離れ、残されたものが目に飛び込んでくる。
…切符、か?

「東京・仙台間の新幹線回数券」

顔を上げれば、“先輩”はショルダーバッグを肩に掛け、片手を上げ扉へと向かう。
どうやら帰るつもりらしい。
傍らを抜け去って行く背に「これは?」と尋ね聞いた。

「お土産。有効期間は2月いっぱいだけど…そんだけ期間あれば大丈夫だよね」

清々しいほどに一方的に決めつけて、彼女は大平の肩に手を置くとその場で一旦立ち止まり、振り向いた。

「牛島クン、天海はね、モテるよ。卒業式は何人に告られるか見ものだし、大学に行ったらどうなるかね? あの子の大学、男バレ強いからね。アンタと同じポジションの、アンタより上の奴がいるかもね」

襟足の辺りがゾワリとした。
毛が逆立つような感覚。
大学…大学生プレイヤー。
天海の志望校はバレーでも強豪校だったことを思い起こす。

「女は、身体を許せば後は早いよ。心なんてすぐだ。アンタがここでウダウダ言って、自分の気持ちすらねじ伏せて、修行僧みたいに唸ってる間に天海は他の男に手を引かれて歩き出す」

大平の肩を最後に軽く叩くと、背を向けた“先輩”は、
「好きな気持ちを抑えて頑張る、天海曰く“翼の生えた”牛島クン。今を逃したら飛んでもあの子には届かないからね…その自縛の片翼がそのままでもいいものか、よーく考えな。チャンスはやったよ」
と言い、颯爽と去っていった。
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