第25章 片翼の鳥(1)
秋口に聞いた「この冬は暖冬になりそうです」という中期予報に反した連日の降雪、それが一息ついた頃に年が改まった。
昨年は、当時の主将の声掛けで、明けて2日目にランニングがてら学園近くの神社へ男子バレー部揃って参拝に行った。
今年も“そう”するのだろうと2年は誰しも思っていたが、溶けきらない雪が残る道を走るのも危なかろうと練習と祈願を兼ねた初詣は見送られた。
件の神社を場所は知りながらも訪れたことのない川西は、早目に切り上げられた元日の練習後に
「大きい神社なんですか?」
と大平に尋ねていた。
川西がそれほど神社に興味があるとは俺自身知らなかったが、それは傍で会話を聞いていた天童も同じようで機敏に反応していた。
「太一、興味あんの?」
「いえ。別に興味はないんですけど…」
「どー?」
「大きいところなら三が日は混んでるだろうなと、そう思っただけです」
「去年は結構混んでたよな」
片付けの手を休めず、瀬見が会話に加わる。
「振袖の子とかそれなりにいたよな、確か」
「カップルも多かったけどね」
「…その中をジャージで参拝、ですか」
「なかなかに目立ってたよね、俺ら」
「幸か不幸か、な」
苦笑いを浮かべた瀬見に対して、天童はさも愉快げに川西を見やった。
「…太一、初詣行く?」
抱えたボールを同じ1年の湯野浜へ投げていた川西の手が止まった。
いや、川西だけではない。
天童の提案聞いた、その場にいた1、2年は全員の手が止まった。
「行きません。雪道ですよね。コーチや監督にも怒られますよ」
「バレたらね」
「バレないと思いますか?」
「バレない、に賭ける」
「ハイリスク・ローリターンな賭けじゃないっスか、それ」
「賭けは大抵ハイリスク!」
乗り気の天童に白布と瀬見の両セッターが論点のズレを指摘し、大平が「変なことに誘うんじゃないよ」と諌めるように言う。
ところが、天童は諦める様子もなく、なぜか俺に声をかけてきた。
「若利くん、初詣行った?」
「行ってないが」
昨日の晩からほぼ一緒に行動しているお前なら知っているはずだが。
首を傾げることでそう伝える。
天童は器用に口端だけを歪めて「じゃあさ…」と言葉を継ぐ。
「初詣行こうよ。寮に戻る途中にあるじゃん、神社」
「…別にいいが」
「決まり!」
楽しそうな天童の一声。
――俺たちの初詣が決まった。