第10章 家光様の帰城ー四日目・鷹司ー
暗いな……でも人目を忍ぶにはちょうどいい。
もうすぐ新月だから、空には細い月が浮かんでいる。
家光のやつ、何考えてんのか全然わかんねえよ。
いきなり帰ってきて、いきなり俺を正室に指名するとか言って部屋にとじこめて。
紗代にも会えずじまいで、このまま本当に正室になるのかもしれないって絶望したけど、やっぱあいつに会って伝えないことには何も始まらない。
葵の間にたどり着いた。
「紗代、寝てるのか?」
小さな声で呼びかける。
ここでもたもたして、誰かに見つかったら苦労が水の泡だ。
「入るぞ。」
返事はなかったが、襖を開けて中に入る。
そこにはあどけない顔で寝る紗代がいた。
この三日、気が気じゃなかった。
他のやつがこいつに目つけてんのも薄々気づいてた。
俺が家光につかまってる間に何かあってもおかしくない。
俺はこいつのこと絶対に離したくないと思ってるけど、こいつがどう思ってるかはわからない。
褥の側まで進み側に座る。
枕元には、明日着るのであろう着物が畳まれていた。
やっぱり明日出ていくってのは本当なのか。
それは家光から聞かされた。
『そういえば、紗代はもう用済みにて明日、ここを去ることになったようだぞ。』
なんでもない事のように告げられたそれは、俺には衝撃的な知らせだった。
もう二度と会えないかもしれない。
意を決して抜け出して、やっとここまでたどり着いた。
無理に起こすのも気が引けて寝顔を見ていると、耳のあたりになにか光るものがあるのに気がつく。
そっと髪を避けてみると、それは……
ー俺のやった耳飾りじゃねぇか。